-Death On The Stairs-

So baby please kill me Oh baby don't kill me 浦和とかサッカーとかサブカルとか。

Fateの話をしようじゃないか、という雑談(前篇)

※注:本文は「Fate/staynight」および「Fate/hollowataraxia」更にはTYPE-MOON作品に関しての雑なネタバレが含まれる可能性が極めて高いので、同作品を未プレイ・ならびに「これからプレイしようとしている人」はまず、一通りプレイしてからお読みいただけると良いと思います。

 

Fateがブームみたいだ。

唐突になんの話かと言われればそれまでだけども、仕事柄時折足を運ぶ秋葉原の街を歩けば、この空気感が伝わるんじゃないかなと思う。

秋葉原はことオタクムーブメントにおいては、常に時代の発信基地だ。この街をフラフラと数十分歩くだけでも、その時なにが「来ているのか」がだいたい分かる。それがこの町が、こと「オタク産業」においては最重要視される要因だ。この町で愛されれば自然と「圧倒的マジョリティ」になり、「圧倒的なマジョリティ」となれば自然とこの町にも愛される。オタク同士による「圧倒的な補完関係」がこの街にはある。

Fateブームの要因は、スマートフォンアプリ「Fate/Grand order」にあるのだろう。2015年にリリースされたこのゲームアプリは、当初こそ色々と問題を抱えたものだったみたいだが、今は「携帯ゲーム市場」で一つの王国を築きつつある。今なお戦国時代といえる同市場において、このアプリは売上額だけで見ればちょっとした歴史を作ろうとしているらしい。

過去に「実在」したか、あるいは「神話上で語られる」「偉人」を、「サーヴァント」として使役し、「壮大な戦い」に挑む。こと「伝記」や「歴史」好きが多いオタク層にはバッチリとハマった。とはいえ、「Fate」の基本プロットは発表された2004年から大きく変貌はしていない。強いて言うならば舞台が果てしなく「壮大」になったくらいだろう(なんといっても最初の物語は冬木という「1都市」で完結するお話だった)。そんなFateがここまで大きなムーブメントになったのは、ちょっぴり「意外」でもあり。あるいは「必然」でもあるようにも思える。今日はその「必然」に至る昔話をちょっとしてみたい。なに、なんてことない雑談なので、読んで全く得はしないと思うけども。

 

 

ちょっと昔話をしよう。

90年代末~2000年代前半。「仁義なきゲーム戦争」には一応の区切りが付きつつあった。「家庭向けゲーム機」という独自の地平を走り抜く任天堂。それとは別の、いわば「オタクがプレイするゲーム機」の市場をSONYという強大な敵と争い続けたSEGAはいよいよ敗北の時を迎えようとしていた。98年には次世代機「ドリームキャスト」を発表するも、「プレイステーション2」に対して一度も優位性を保てぬまま、2002年には完全敗北。以降は(現在にいたるまで)サードパーティーとしての生活を余儀なくされている。そんなSEGAに対し、SONYが完全勝利を達成した、そんな時代でもあった。(因みに著者はSEGA信者)

とはいえ、厳しいレギュレーションを保つ「プレイステーション」では、「エロ」や「バイオレンス」を過剰に扱った作品はリリースされず、「それらの作品」を「求める客」や、「そういった作品」を「作りたいクリエイター」は別の「大陸」を求めた。

その行き先として彼らが選んだ新天地が「18禁PCゲーム」という場所だった。

90年代後半から00年代初頭という、極めて限られた期間ではあるものの、この市場に「様々な才能」が集まり、凌ぎを削ったのは、決して偶然ではない。時代が彼らの「居場所」をここに定めたのだろう。

99年にはD・Oから「加奈~妹~」が発売。これはこの時期から始まる「泣きゲー」ブームの発足に深く関与する作品...というだけでなく、後に星空ぷらねっと」「家族計画」「CROSS†CHANNELそしてライトノベル人類は衰退しましたを手掛けることになる田中ロミオ山田一)氏の商業デビュー作となる。

同じく99年にはKeyからKanonが発売される。これが「泣きゲーブーム」の決定打となる。因みにこちらは、後にAIR」「CLANNAD」「リトルバスターズ!を手掛ける麻枝准氏の代表作でもある。

翌年2000年には、ニトロプラス「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」を発表。もはや「エロ」の要素を度外視した「萌えゲー」ならぬ「燃えゲー」の代名詞となった本作のシナリオを担当したのは虚淵玄氏。氏はその後も吸血殲鬼ヴェドゴニア」や「鬼哭街」「沙耶の唄といった強烈で独特な作品を世に送り出した。その後まどか☆マギカそしてFate/Zeroの原作・シナリオを担当した...ということはもはや説明不要だろう。

2002年にはライアーソフト腐り姫をリリース。商業的な成功を収められたわけではなかったが、「エロティック伝記ホラー」という独特な世界観が主に「クリエイター」から熱く支持され、生産枚数が少なく、追加生産も無かった事から、後にソフトが「高騰化」する現象が起きた。同作のシナリオを担当したのは星空めてお氏。氏はその後も「児童文学」と「ミステリー」と「難解なゲーム性」を融合させた意欲作「Forest」を作り出すなど、意欲的に活動。近年では「世界征服~謀略のズヴィズダー~」のシナリオ構成・脚本を担当。現在はTYPE-MOONに所属している。

同じく2002年には戯画から「Ripple」が発売される。こちらのシナリオを担当したのは丸戸史明氏。氏はこの後「ショコラ」「パルフェ」「この青空に約束を」「世界で一番NGな恋」などを手がけ業界を代表するシナリオライターとなって行く。現在は原作を務めるライトノベル冴えない彼女の育て方が絶賛アニメ放送中だ。

年が明けて2003年にはきゃんでぃそふとから「姉、ちゃんとしようよっ!」が発売される。「姉萌え」という独特な視点だけでなく、軽妙なテンポでの掛け合いが人気となったこの作品のシナリオをてがけたのはタカヒロ氏。後につよきすを同レーベルで大ヒットさせたのち、自社レーベル「みなとそふと」を立ち上げ、君が主で執事が俺で真剣で私に恋しなさい!を手掛けた。現在は結城友奈は勇者であるの企画原案やアカメが斬る!の原作を務めるなど、こちらも商業の最先端で活躍中である。

このように時代はかくも「偉大」なクリエイターを数多現代に誕生させた。

そして2004年のFateである。

Fate」シリーズの原点となるFate/Stay nightが発表されたのは2004年。同人サークル「TYPE-MOON」のオリジナル作品として2作目、そして商業デビュー作となった作品だった。

TYPE-MOON」がレーベルとして発表した1作目は月姫。2000年に「同人作品」としてリリースされた本作は、「同人」というベースで発表された作品とは思えないクオリティ、「強烈なバイオレンス」と「容赦のないシナリオ」、そして「深く作り込まれた世界観」とそれを解説する「公式の副読本」の存在が多くの信者を生み出した。そんな「知る人ぞ知る」同人サークルTYPE-MOONの商業デビュー作である「Fate」は多くの期待を集めた。

当時、某同人店でバイトをしていた著者は、この業界の成り行きにはてんで疎かったのだが、発売前夜の「ソワソワ」をなんとなく覚えている。入荷した「Fate/stay night」を見つめる店員の瞳はキラキラと輝き、その期待を隠そうともしなかった。

「悪いことは言わないから君も買った方が良い。売り切れるだろうから、取り置きしておいてあげるから」

そう言われたボクは、バイトの先輩の言葉に特に疑問も持たず頷いた。大学生にしちゃあ身入りの良いバイトだったから、これくらいは買ってもなんともなかった。今にして思えば、「バイオレンス」と「暗いシナリオ」を嫌うボクが、自主的にこの作品を買うとは到底思えず、バイト先の先輩には感謝するばかりだ。ありがとう名も覚えていない先輩よ。あなたのおかげでボクは未だに「Fate」と仲良くしています。

さて、「Fate/stay night」がどのような評価を得たのか...に関しては、敢えて語るまでもないだろう。

同人サークルの商業デビュー作。しかも「PCゲーム」というニッチな枠組みの中でも更に「18禁ゲーム」というハイパーニッチな市場で販売されたにもかかわらず、販売本数は40万本を超えた。これは同市場の歴史に残る売り上げ記録だそうだ(因みに現在の一般ゲーム業界では50万本売れたら大ヒットである。そう考えればこの数字がいかに凄いかわかるはずだ)。

因みに前述の田中ロミオ氏はFate「日常の背後に潜む魔術的闘争を少年漫画仕立てに描いた傑作」と評している。

sube4.hatenadiary.jp

正しく言い得て妙で、「Fate」は「エロゲー」の皮を被った「少年漫画」であった。「自分の生きる意味」に苦悩する少年が、運命的な「出会い」を通じ「戦い」へと誘われる。そこで出会う「強敵」との戦いが少年を成長させる。その中では「美少女たち」との出会いや別れもある。心ふるわせる燃える展開があり、胸かきむしる切ない展開もある。

彼が最終的に向かい合う敵は「父」であったり「父的な何か」であったり「自分自身」であったりする(この辺は後編で書きます)

徹底的に一人の少年の「葛藤」と「苦悩」と「成長」を描くための物語。それが「Fate」であった。

とはいえ、この作品には圧倒的に欠けているものがあった。それは「スケール」だ。最終的には「全人類の存亡」に関わるような大事件へと発展していく「聖杯戦争」ではあるが、舞台はあくまでも「冬木市」という1都市。その都市で行われたわずかな時期のミニマムな物語が「Fate」の全てでもある。

また登場する「英雄」(作品内では英霊と呼ぶ)のバックボーンや、彼ら独自のキャラクターを存分に生かせている...とも言い難かった。

冬木市」という限定された「街」で行われる「戦争」は、やはり「戦争」と呼ぶには少しミニマムで、なおかつその「戦争」の期間の短さも相まって、彼らの内面を掘り下げるには至らなかった。(とはいえ、そこに着目していたら、Fateは少し毛色の違う物語になっていたはずだ。そこに関しても後編で触れます)

とはいえ、題材として「Fate」が持つ魅力は抜群。まだまだ色々な切り口で物語を描けるはず。

そこで敢えてこの「stay night」の「前日譚」を描こうというプロジェクトが立ち上がった。これが「Fate」におけるとても大きな転機だったと思う。

その「前日譚」=「Fate/zero」の原作者は、シリーズのメインシナリオライターである奈須きのこ氏ではなく、盟友である虚淵玄氏が務めた。氏の描いた「第4次聖杯戦争」は、「stay night」で描かれた少年漫画的な「第5次聖杯戦争」とはちょっと趣の異なる、とってもビターな物語になった。

「どう物語を描いてもバッドエンドになる」ことに苦悩する作家であった虚淵氏と「どう描いてもバッドエンドにしかなりえない」「第4次聖杯戦争」という題材はぴったりマッチした。

「人間臭さのある登場人物」、前作よりも更に「英雄然」としている「サーヴァント」。そして「容赦のないシナリオ」。

かくして「Fate」はその物語に大きな「スケール感」を得た。

物語の「前日譚」は、設定と世界観に「深み」を与えた。

また様々なアプローチで発揮された「サーヴァントの魅力」は、作品に対する「自由な目線」も与えた。

かくして、この「深み」が、後に続く「Fate」シリーズの「自由性」、ひいては「Grand order」に至る道筋を作ったのではないかと思えるわけだ。

Fate/Zero」の存在は、「Fate」というシリーズの起爆剤になっただけでなく、一人のシナリオライターの生命も救った。

「何を書いてもBADENDになる」ことへの苦悩を感じていた虚淵氏は、一時は真剣に「筆を折る」ことも考えていたらしい。しかし「Fate/zero」の執筆が、再び筆を執り続けることへの大きなモチベーションになったのだそうだ。ともすれば「Fate/Zero」が無ければ「まどか☆マギカ」がこの世に生まれなかった可能性もあるというわけだ。

すなわちこの出会いは、両者にとって「最良の縁」だったと言えるのでは?と思えるわけだ。

 

00年代の「エロゲー」、という不毛の地で出会った「若き才能たち」。彼らがその時代の作品を通して強く「共鳴」し、結果として「大きなカルチャー」を現在、共に形作っていること。

それは、この時代を見つめてきた当事者の一人として、なんだかとても感慨深く感じる現象でもある。「Fate」のブームは、そんな感傷を引き起こすファクターにもなっている。

 

→さて、後編ではもう少し「Fate」という物語の構造を掘り下げてみたいなぁと思います。駄文ですみませんがもしよければ引き続きお読み頂ければ幸いですm(__)m

 

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